この記事では、健康に影響する「血管年齢」について解説します。血管が老化するメカニズムや若返らせるためのポイントなどを中心に取り上げて、健康な血管を保つための知識が身につく内容となっています。
血管年齢の基本を知ろう
血管年齢とは?
実際の年齢とは別に、血管の健康状態に基づいて算出される指標が「血管年齢」です。この値が高いほど、血管が老化していると判断されます。通常、動脈の柔軟性を評価するCAVI検査や動脈の詰まりを測定するABI検査を通じて、医師や専門家が血管年齢を推定します。
血管年齢と健康への影響
血管年齢の高さに比例して、動脈硬化や高血圧、心臓病の発症するリスクも高くなります。
また、血管が老化することで血流が悪くなり、各臓器へ酸素や栄養の供給が不足する可能性があります。これにより、全身の健康への悪影響が表れることがあります。
血管年齢が高くなる要因
実は、血管年齢が高くなる要因には未解明な点が多く存在します。しかし、一般的には加齢に伴う体質の変化や、不健康な生活習慣によって引き起こされるといわれています。
血管年齢と血液の流れ
血管年齢が高くなるにつれて、血管の柔軟性は低下していきます。柔軟性が低下することで、血管は硬く、脆くなります。さらに、血管の内壁にプラークと呼ばれるコブが形成されることもあります。プラークによって血管の通り道が狭くなると、血液が流れにくくなります。血液の流れは、血管年齢と密接に関係しているのです。
血管内皮機能の低下
血管内皮とは血管の内側を覆う細胞層であり、血管の健康状態を維持する重要な役割を果たしています。しかし、加齢によって血管内皮の機能が低下すると、血栓の形成や動脈硬化になるリスクが増加します。
酸化ストレス
体内の活性酸素には、身体を酸化させる力があります。これは「酸化ストレス」と呼ばれるものです。酸化ストレスは加齢や不健康な生活習慣によって増加し、身体を酸化させることでダメージを与えて血管を脆くします。
血管平滑筋の異常
血管平滑筋は血管壁の内側にあり、血管の収縮・拡張を制御しています。血管平滑筋に異常が生じると、血管の正確な調節が難しくなり、高血圧や動脈硬化につながることもあります。
これらのメカニズムがお互いに影響し合い、血管の老化は進行するといわれています。血管の健康を保つためには、そのメカニズムを考慮した適切な予防策が必要です。
血管年齢による影響と症状
血管年齢が高くなることで、身体にはさまざまな影響と症状が表れます。例えば、動脈硬化や心血管系疾患などです。これらの症状に血管年齢がどのような影響を与えるのか、また、予防するための生活習慣や対策を解説します。
血管年齢と動脈硬化
医学的には「血管の老化」は「動脈硬化」と同義にされているケースもあります。加齢や喫煙、高血圧、コレステロール、肥満、運動不足などによって、血管が厚く硬くなる症状が動脈硬化と呼ばれています。
血管年齢が高くなると動脈硬化の進行が促され、心血管系※の疾患リスクが増します。内皮機能の低下や血管の収縮が進行し、血液の流れが滞り、血管が詰まりやすくなります。
※心血管系:心臓と血管から構成され、循環器系とも呼ばれる
血管の柔軟性が喪失
加齢に伴い、血管壁の柔軟性は低下します。これにより、血管が正常に収縮・拡張できなくなり、血液がスムーズに流れにくくなります。柔軟性の低下は、血管年齢の上昇とともに進行し、心臓と体全体へ影響を及ぼします。
心臓への負担が増加
柔軟性が低下して血管が硬くなると、心臓は血液を送り出すためにより多くの力が必要になります。これにより、心臓のはたらきを助ける弁や筋肉に余計なストレスをかけ続けることで、心臓の健康を損なう可能性があります。
脳梗塞のリスク
脳の血管が詰まることで、血液の供給が途絶えてしまうのが脳梗塞です。血管年齢が高いと、動脈硬化や血栓形成のリスクが増加し、脳梗塞を発症しやすくなります。
座りっぱなしの生活は脳梗塞の危険あり!
長時間座りっぱなしの生活は、血液の循環を悪化させ、脳梗塞のリスクを増加させることが知られています。定期的な運動や工夫して身体を動かすことで、血行の改善と脳梗塞の予防が期待できます。
高血圧、糖尿病、脂質異常
高血圧は血管に負担をかけ、糖尿病は血管を損傷し、脂質異常は動脈硬化を促進します。
これらの疾患を予防するためには、バランスのとれた食事、定期的な運動、禁煙などが効果的とされています。
血管年齢との関係性を理解して、適切な生活習慣や予防策を取り入れることが、あなたの健康を保つことにつながります
血管年齢が若返るメリット
血管年齢の若返りには、血管の柔軟性、血圧の安定、血行促進など、多くのメリットがあります。
心臓や血管系の負担軽減から動脈硬化の予防まで、若返った血管がもたらす健康効果を知り、健康寿命を延ばすためのヒントにしましょう。
血管の拡張・血圧の低下
血管年齢が若返ると血管の柔軟性が向上し、血管が拡張しやすくなります。これによって、血液が流れやすくなり、血圧が安定します。正常な血圧は心臓や血管への負担を軽減し、心血管系の健康を促進します。
心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクが減少
血管年齢が若返ると、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気を発症するリスクが減少します。
これは、血液の凝固作用が正常に保たれることで、血管が血栓で詰まってしまうといった状態を防ぐことができるからです。
血液の凝固作用とはけがをして出血すると、身体は傷ついた血管からの出血を止めようとします。このとき、血液の凝固する作用がはたらきます。
しかし、この作用が過剰になることで、血管を詰まらせる原因となる血栓が作られてしまいます。例えば、これが脳の血管に起こると脳卒中、心臓につながる血管に起こると心臓発作につながります。
動脈硬化の予防
血管年齢の若返りには、動脈硬化を抑制する効果があります。柔軟性のある若い血管は、動脈内のコレステロールや脂肪が蓄積しにくく、老化した血管に比べて心臓や血管の健康を保つことができます。これによって、動脈硬化が進行しにくくなります。
全身への酸素供給能力が向上
血管年齢が若返ると、各組織や臓器への酸素供給能力が向上し、全身の健康状態が良くなります。また、酸素供給能力の向上はエネルギー代謝を促進する効果もあるので、身体のさまざまな機能に影響を及ぼします。
これらの「血管年齢が若返るメリット」によって、心血管系を中心とした全身の健康状態が良好なものになります。しかし、これらの効果を実感するには、適切な生活習慣などの予防策を取り入れることが必要です。
生活習慣改善で血管の健康管理
生活習慣の改善で、血管年齢を若返らせることができる場合もあります。運動の習慣化、適切な栄養摂取、禁煙などが効果的といわれています。
血管を若返らせる運動習慣
運動を習慣化することは、身体の健康だけではなく血管にも良い影響を与えます。
例えば、誰しもが運動をすることで身体が温まった経験があると思います。これは、運動に血行促進の効果があるためです。血管の内側の細胞(内皮細胞)がこの血行促進によって活性化されることで、柔軟で丈夫な血管になります。
ウォーキング
高血圧や糖尿病といった生活習慣病や、肥満などの予防にも効果的なのがウォーキングです。運動中に苦しいと感じたり、急激な血圧の上昇を引き起こしたりしない、ゆるやかな有酸素運動なので、年齢や性別に関係なく、多くの方におすすめできます。
1日の目標歩数
年齢 | 性別 | 目標歩数 |
20歳〜64歳 | 男性 | 9,000歩 |
20歳〜64歳 | 女性 | 8,500歩 |
65歳以上 | 男性 | 7,000歩 |
65歳以上 | 女性 | 6,000歩 |
※出典:国立健康・栄養研究所「健康日本21(第二次)」
上の図表は国立健康・栄養研究所が出している、年齢・性別ごとの1日の目標歩数です。
自分の目標歩数に足りていない場合は、日常生活の中でなるべく歩くようにしたり、ウォーキングを取り入れたりして、目標を達成できるようにしましょう。
筋力トレーニング
筋力トレーニングは年齢による筋力の衰えを防ぐだけではなく、血行促進の効果もあります。
これを、筋肉の柔軟性を向上させるストレッチやウォーキングと組み合わせることで、血管を若返らせる効果がより一層期待できます。
きつすぎず息が上がらない程度の筋トレを取り入れてみましょう。
POINT!運動習慣がない人や運動に不慣れな人が激しい運動をする場合、血圧が急上昇する可能性があるため、注意が必要です。特に高血圧や糖尿病、動脈硬化の可能性がある人は、事前に必ず医師に相談してから、適切な運動を選ぶようにしてください。
血管の健康に影響する食事方法
食塩や飽和脂肪酸、糖分のとりすぎは、高血圧や高血糖のリスクを増加させます。反対に、魚、果物、野菜、全粒穀物などは、オメガ3脂肪酸が豊富で、血管の炎症や動脈硬化の進行を遅らせたり、それらを予防したりする効果があります。
塩分の摂取量を減らす
塩分の摂取量を減らすために、食事で少しの工夫をしてみましょう。例えば、いつも使っている醤油を減塩タイプに切り替えたり、市販のドレッシングの代わりに酢やレモン汁を使ったりすることは簡単にできる取り組みです。
カリウムを積極的に摂取する
カリウムには塩分の排出を促進する作用があります。多く含まれている代表的な食材は、大豆製品(納豆や豆腐)、かぼちゃ、ほうれん草、ブロッコリー、枝豆、イモ類などです。前述した塩分の摂取量を減らす食事に付け加えるとより効果的です。
タンパク質で血管の若返り
良質なタンパク質は血管の内皮細胞の新陳代謝に関与しており、血管の健康を保つのに不可欠な成分です。マグロ・カツオ・サバなどの新鮮な魚類、鶏の胸肉やささみ、大豆製品などにも良質なタンパク質は含まれています。これらをバランスよく摂取して、血管の若返りをサポートしましょう。
野菜の抗酸化成分で身体の酸化を防ぐ
活性酸素には殺菌力があり、身体の免疫に関わる重要な役目があります。しかし、過剰に産生されることで血管を傷つけ、老化を進めてしまう作用もあります。
この活性酸素に対抗できるのが抗酸化成分です。抗酸化成分はトマト、にんじん、かぼちゃ、ほうれん草などの緑黄色野菜に多く含まれています。緑黄色野菜を食べて、活性酸素の増加を防ぎましょう。
禁煙
運動と食事方法以外で血管の若返りに効果的なものが禁煙です。喫煙は血管を収縮させて、血管を老化させます。あなたが喫煙者であれば、禁煙をすることで血管の健康状態を向上させることができるはずです。
血管の若返りは内皮細胞がポイント
内皮細胞の役割と健康への影響
血管は外膜・中膜・内膜の三層で構成され、内膜には直接血液に触れる「内皮細胞」があります。
内皮細胞は血管壁内に血液に含まれる有害物質の侵入を防いだり、血液を固まりにくくさせたりするはたらきをもっています。他にも、血管の収縮や拡張を調節するなど、身体全体の健康に大きな影響があります。
内皮細胞の機能が低下するメカニズム
酸化ストレス、炎症、高血糖などが原因で、内皮細胞の機能は低下します。
例えば、酸化ストレスは細胞を酸化させることで内皮細胞を損傷させます。また、慢性的な炎症は内皮細胞にも悪い影響を与えます。内皮細胞の機能が低下すると血管の柔軟性も低下し、血行が悪くなります。
これらの原因を避けることで、内皮細胞を守りましょう。
内皮細胞の新陳代謝が重要
血管を若返らせるために不可欠なのが、内皮細胞の適切な新陳代謝です。
内皮細胞は血管内壁を覆い、血管の健康を維持する重要な役割を担っています。内皮細胞が新陳代謝をすることで、血管の柔軟性が保たれ、血行促進を促します。
まとめ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 血管年齢は、健康な生活習慣や予防策を通じて若返らせることが可能です。適切な食事、定期的な運動、ストレス管理などが、血管年齢を若々しく保ち、心血管系や全身の健康をサポートします。
血管年齢の正確な評価や健康状態の確認には、医師や専門家の協力が必要です。定期的な健康診断や相談を通じて自身の健康を確認し、適切な対策を講じてください。
※この記事は、健康に関する一般的な情報を提供するものであり、医師等の医療従事者の行う医学的なアドバイスやそれに代替する情報を提供するものではありません。この記事を参考にされる際は、ご自身の健康状態に留意のうえ個人の責任において行ってください。また、健康上の懸念がある場合には、医師にご相談ください。
【参考資料】
●朝日生命保険相互会社「朝日生命ネットほけん」
●青森労災病院「うみねこ通信」
●一般社団法人スマートウェルネスコミュニティ協議会「知っておきたい動脈硬化」
●厚生労働省「e-ヘルスネット」
●糖尿病治療研究会「糖尿病リソースガイド」
●全国保険協会「10月 強い血管をつくる運動習慣」
●MSD「MSD マニュアル」